歯の発育障害とその原因
妊娠は受胎から出産までの女性の状態をいい、この時期はホルモン関係をはじめとしてさまざまな生理的変化が起こっているので、妊婦への薬剤投与に関しても十分な配慮が心要である。とくに妊婦の催眠薬として使用されたサリドマイドによるフォコメリーやその他の障害をもつ子供の出生が報告された後、薬剤の効果•有害作用に対して関心が非常に高まってきている。乳歯に与える影響のうち、妊婦がテトラサイクリン系抗生剤を服用すると小児の乳歯が変色することがある。歯の石灰化期にテトラサイクリン系薬剤の服用により黄色ないし褐色に着色することがある。
次に斑状歯について述べてみる。斑状歯は、歯の形成期間中にフッ素化合物を含む飲料水を多量に摂取したことにより生ずる歯の石灰化不全病変である。永久歯に多く現れるが、フッ素高濃度地域では、まれに乳歯にも現れる。特定の地域に集団的に発現し、歯冠表面に現れる白濁を主体とする歯の異常である。Ericsson (1976)の研究によると母体の血中フッ素量が相当上昇しても、胎児へ移行したフッ素は非常に低く、胎盤が「フッ素の障害」となっていると報告している。このことは斑状歯が乳歯に出現しにくい原因となっていると考えられる。
次にビタミン剤との関係についてみると、とくに口腔領域においてはビタミン欠乏との関係は深く、種々の異常をきたすことが少なくない。とくにビタミンAやDは胎児の歯や歯槽骨の発育が正常に行なわれるために重要である。乳歯に与える影響としては、ビタミンD欠乏による歯の形成不全や萌出遅延があげられる。