1)乳歯と永久歯
母親が子供を連れて歯科医院を訪れる理由のなかに、「歯が生えてこない」「歯の形がおかしい」といった訴えをあげることができる。このような場合、齒の欠如や形成障害 が疑われる。乳歯の場合、形成時期からみてその原因の多くは胎生期、それも母親が 妊娠の事実に気づかない7週から10週というきわめて初期の段階から見出すことがで きる。胎児は母体というバリアーに守られているとはいえ’ 乳歯の形成が妊娠の非常の不安定な時期に行なわれるだけに、その形成異常は皆無ではない。
一方永久歯では、その形成過程の多くは出生後、直接外界と接する厳しい環境のなか で行なわれるため、影鄉Iを受ける機会が多くなる。われわれ歯科医師は、子供の歯のわずかな変化から、子供の全身状態、全身的疾患、あるいは母親の®康状態などを把握するヒントを得ることができる。

2)歯の発育障害の種類とその原因
歯胚形成の各段階と、各々の時期に対応する障害を分類するにあたって、ここで は成長期および石灰化期の異常のぅちおもなものをとりあげ、原因を簡単に列挙する。

(1) 歯数の不足
これには、少数歯が欠如する部分的無歯症と、全部が欠如する全部性無歯症がある。原因としては、外海、局所感 染症、放射線障害などの局所的なもののほかに、外胚葉異 形成症、先天性風疹症候群、 色素失調症、ダウン症候群、 内分泌障害など、全身的疾患 に伴う場合がある。

(2)歯数の過剰
乳歯列や、永久歯列に現れ’ そのなかでも正中過剰埋伏の 頻度が高く、原因としては、 基本的には歯胚の発育時期と 関連性がある。

(3) 歯の大きさの異常
巨大歯、矮小歯がこれに該当する。いずれも乳歯では少 ない。外胚葉異形成症、ダウ ン症候群、ヒューラー症候群などでは矮小歯がみられることがある。また、歯数の不足で述べた原因でも起こりうる。巨大歯は、巨大症、半側肥大症に伴うことがある。

(4)結節、隆線の異常
歯帯の異常発育であるカラベリー結節、中心隆線の過剰発育と思われる中心結節、基底結節の過剰発育などがあげられる。中心結節は長大になると内部に歯髄腔が入り込んでおり、破折およびそれに伴う露髄に注意を要する。

(5)癒合歯、癒着歯
ニ個の正常な歯胚が、その発育過程で、歯髄腔または象牙質で合体したものを癒合歯、セメント質のみで合体したものを癒着歯という。乳歯には前者が多い。いずれもX線写真による確認が必要である。

(6)タウロドントの歯
歯髄腔が長軸的に異常に長く、歯根の短い特徴的な歯で、歯内療法時には注意が必要 である。原因は明らかではないが、クラィンフェルター症候群との関係がいわれている。

(7)形成不全(減形成と石灰化不全)
エナメル質および象牙質は各々エナメル芽細胞、象牙芽細胞よりつくられる。しかし 厳密にはこれら二つの細胞はエナメル質および象牙質が石灰化されていく基礎となるタンパク質を分泌するものであり(基質の形成)、次の段階で石灰化が起こる。したがって、これら硬組織は基質形成とその石灰化という二つのステップを踏んで完成される。形成不全という言葉は基質形成が障害されることを指す減形成と、石灰化が障害されることを指す石灰化不全を意味している。原因としては局所的なものと全身的なものが考えられる。

① 歯胚形成期の外傷の影響
② 乳歯の根尖病巣
③ 放射線障害
④ 慢性歯牙フッ素症
⑤ 栄養障害
⑥ 内分泌障害
⑦ 熱性疾患、感染症

①~③は局所的原因、④〜⑦は全身的原因である。全身的原因に起因する形成不全は 左右対称に歯牙の形成時期に一致して見られるため、その時期をある程度知ることがで きる。また、遺伝的原因による形成不全も認められている。しかしながらその造伝形態 は明らかではなく以下簡潔に述べるにとどめる。

⑴遺伝的Hナメル質形成不全
これには基質形成障害を主とする減形成型と、石灰化障害を主とする石灰化不全型が ある。減形成が軽度であれば表面が粗造である程度だが、重度になると実質欠損を伴ぅ。 石灰化不全を主とするものはエナメル質の外形には変化がないものの、石灰化が著しく 障害されているために激しい咬耗にみまわれる。

⑵遺伝的象牙質形成不全
歯冠は透過光で乳白色(オパール色)を呈している。X線的に歯髄腔の狭小化あるいはほとんど認められないのが特徴である。

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